ひとりでいる時間を、
寂しいものだと思っていた頃があります。

誰かと一緒にいるほうが安心で、
静かな部屋は、
どこか足りない場所のように感じていました。

音をつける。
誰かの声を流す。
画面を開いたままにしておく。

それは、
孤独を避けるためだったのかもしれません。

けれど、
あるとき気づきました。

ひとりでいることと、
孤独であることは、
同じではない。

誰かのそばにいても、
深く孤独を感じることがあります。

逆に、
誰もいない部屋で、
静かな安心を感じる瞬間もある。

違いは、
外側ではなく、
内側の状態なのだと思います。

孤独は、
切り離されている感覚。

どこにも触れられないような、
遠さ。

安心は、
ひとりでもつながっている感覚。

世界から離れているのではなく、
ただ静かに立っている状態。

以前は、
ひとりでいる時間を、
「空白」だと思っていました。

何かで埋めなければいけない時間。

けれど今は、
余白だと感じています。

余白は、
欠けているものではありません。

呼吸が戻る場所。

誰にも合わせなくていい速度。

役割を置いたまま、
ただ存在していていい時間。

ひとりでいられる力は、
強さというより、
許しに近い。

何かを証明しなくてもいい。
誰かに見せなくてもいい。

それでも、
自分はここにいると感じられること。

その感覚があると、
人と会うことも変わってきます。

埋めるためではなく、
分かち合うために会える。

孤独を消すためではなく、
静けさを持ったまま近づける。

ひとりでいられる人は、
距離を恐れない。

そして、
近づくことも自然になる。

五感も、
その変化を知っています。

静かな部屋で、
自分の呼吸が聞こえる。

遠くの音が、
ゆっくり届く。

誰にも触れられていないのに、
安心している。

それは、
孤独ではなく、
居場所です。

ひとりでいられる力は、
誰かを遠ざけるためではありません。

戻れる場所を、
自分の中に持つこと。

世界が騒がしくても、
そこへ帰れると知っていること。

その感覚があると、
孤独は少し形を変えます。

怖いものではなく、
静かな支えに。

そして気づけば、
ひとりでいる時間は、
回復の時間になっている。

何も増えていないのに、
何かが満ちている。

静かに。

次は

第31回|五感で生きる──終わらない入口

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